古本のおひさま堂がゆくわよ!

子どもの本に囲まれて暮らすおひさま堂が記す、絵本と児童書の紹介・感想・覚書

戦争について考えるきっかけに!『ヒットラーのむすめ』

戦争について考えるきっかけに『ヒットラーのむすめ』をおすすめしようと思う。この本のテーマは、戦争ではないかもしれないけれど……。

この作品は、実に不思議な物語なのである。

子どもたちがスクールバスを待つ間に始めた「お話しゲーム」。もともとは、新入生トレーシーを退屈させないために何度か繰り返したお遊びだったが、トレーシーの姉アンナが今回選んだテーマは、ヒットラーだった……。

いつもは、冒険活劇や戦闘のお話を好むマークだったが、その時ばかりは、なぜかアンナのお話にぐんぐん惹きこまれていく。そのマークを通じて、戦争のこと、戦争を容認した人々のこと、正しいこととは何かということ、自分の頭で考えるということ、大人が子どもに接するときの態度などなど、様々な問題提起が行われる。

メインストーリーの中に「ヒットラーのむすめのおはなし」が入れ子になった構成で、読みながら、上記の問題提起について読者もまた考えながら本を読み進めていくことになるだろう。

巧みな構成が、読者を捉えて離さない。読了までおよそ2時間ほど、読者を全く飽きさせずに読ませるのだから大したものだと思う。

これまで軽いノリで「お話しゲーム」を楽しんでいたはずのマークが、なぜ今回だけ急にヒットラーの娘のお話の虜になったのか……最初はその点に違和感を持ったが、読み進むうちにそのことを忘れている自分に気が付く。そして、正直なところ7割くらいは予想できた結末が、その違和感を払拭してくれた。

フィクションならざるものの力ということか? いや、このお話はもちろんフィクションということなのだけどね。そんな矛盾を当たり前のように内包しているところが、この作品を不思議な物語と感じさせる所以なのかもしれない。

いわゆる日陰の身でありながら、賢く冷静に生き抜いたヒットラーの娘ハイジのお話のテーマは、もちろん平和ということ。

一方、その物語を聞き、考えるマークの姿からは、「自分で考える」ことの大切さが浮かび上がってくる。

ハイジのミステリアスな人生と、オーストラリアの少年の普通(?)の日常が絡み合って不思議な世界を作り上げている。

毎年の夏休み、終戦記念日が近づくと、戦争の本を読む人も多いだろうが、戦争の悲惨さを直接伝える作品ばかりでなく、時にはこんなお話もよいのではないかと思う。このお話なら、読者も戦争について「自分の頭で」考えることができるだろうから……。

 

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